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■コンセプト
ここに山水の出力トランスHS-5がある。シングル用の5kΩOPTだ。銘板に「Power tube to be used 6V6, 6BQ5 Single」と印字してある。50年以上実家に眠っていたもの。久しぶりに起こしてやろう。イメージ 14
真空管アンプは電源が面倒だ。大型のブロックコンデンサとチョークトランスで平滑回路を組むのでコストもかかる。高電圧を取り扱えるパワーデバイス(MOS-FET)を使ってレギュレータを組めば欲しい電圧が得られる。
いつの日か300Bや2A3といった直熱管でアンプを作ってみたい。シングルアンプで十分だ。そのための予行練習といこう。

■アンプ回路
MJ誌 2014/8&9に掲載の300B A1級シングルパワーIVCアンプの回路を参考にした。300Bのドライブにカソードフォロワーのバッファが入っているため初段を含めて3段構成だが、今回は初段+終段だけの2段構成とする。
入力段はグリッド接地。低インピーダンス入力とするために高gmの6DJ8を使用する。プレート電圧を固定するためにTrによるカスコードを付けて、gmが一定動作をするようにした。本来は高gmの五極管を使えばよいところを手持ちの3極管を使いたかったため。
プレート抵抗は1kオーム程度にして6BQ5のドライブに必要な信号振幅を得る。(±3mAで±3V)
6BQ5は3極管接続とする。グリッド電位は初段の出力で定まってしまうので、動作点を決めるためにはカソード電位を固定するための電源を用意しなければならない。6BQ5のシングルA級動作の動作曲線によりバイアス(Vgk)は-6V程度なので、これを初段プレート抵抗の電圧降下で得ることにして6BQ5のカソード電位を初段電源の+100Vで兼ねることにした。

初段の動作点
6DJ8を生かすには高い電圧はダメで70~120V位がよく、また2mA以下の少ないプレート電流も良くない」とのぺるけ氏の知見を考慮すれば 、動作点の中心、プレート電圧80V,プレート電流5mAは妥当だろう。しかし入力信号の振幅が大きい時には2mAを割り込むこともあり得るので歪みの原因になるが、まずは音を聞いてみてから見直しを検討する。

出力管の動作点とロードライン
電源電圧が250Vなのでプレート電流を40mAにとると5kΩの負荷線が下のグラフのように引ける。後で実測したがトランスの直流抵抗により10Vほどドロップするので無信号時のプレート電圧は240Vくらいになる。このグラフは、LT-Spiceで6BQ5のプレート電流変化をシミュレーションして作ったデータを表計算ソフトで読み込んで作ったもの。表計算ソフト上であれば負荷線を引くのも簡単。紙の上で何度も線を引き直して検討することがなくなった。
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■回路図
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■シミュレーション
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ゲイン調整用のフィードバック抵抗 R11をパラメータRfとして0.1, 10, 100, 1k, 50kΩと変化させて出力電圧をシミュレーションしたのが下のグラフ。1kΩと50kΩではほとんどゲイン差が無く、VRをほぼ絞り切った位置でしかゲイン調整ができないことを示している。裸ゲインが少ないためであろう。50kΩのVRではボリューム調整に不適切であるが、手持ちの2連VRがこれしかないので使う。なお、R11=0.1 とほぼ100%に近いフィードバックでも発振はしない。
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下は同じくシミュレーションによるゲイン(-Vout/Vin)の周波数特性(Rf=2, 50, 50k, 10MΩ)。オープンゲインは12dBちょっとしかないことがわかる。10kHz以上で位相が緩やかに回転してくる一方、ゲイン特性はまだ伸びている。100kHzより上では急激にゲインが落ちるのは出力トランスの特性か。高域での位相回転は少ないのでフィードバック安定余裕は十分であることがわかる。位相変化が少ないのは結合コンデンサが無いためと思われる。
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■電源回路(レギュレータ)
差動アンプを使わないので電源のレギュレーションが重要になる。アンプ回路に流れる電流の変動によって揺さぶられることなく電圧をダイナミックに維持する機能がレギュレータの役目だ。そういう意味で電源レギュレータもアンプの一部だ。

a) -10Vレギュレータ
MJ誌 2014/8のp.94に掲載の-10Vレギュレータの回路をそのまま使った。

b) +100Vレギュレータ
既製作の別電源装置の+100V出力が遊んでいるのでこれを使った。

c) +250Vレギュレータ
MJ誌 2014/8のp.93に掲載の+450Vレギュレータの回路をほぼそのまま使った。出力電圧の検出用の分圧抵抗 200kΩ+200kΩを200kΩに変更して約+250Vが出るようにする。調整用のRvは5.6kにした。

d) スタートアップタイマ+保護回路
終段管のB電圧(+250V)の印加を遅らせる時限タイマだ。これもMJ誌 2014/8のp.95に掲載のいつもの回路だが、動作中に+100V電源が落ちた時に+250Vをシャットダウンする保護回路を追加した。 +100Vが落ちることは想定しなくてもよさそうだが、今回は別電源なので、停止時に誤って先に+100Vをオフしたときも含めて対策することにした。動作中にもし+100Vが落ちると終段管グリッドバイアスがなくなってプレートに異常な電流が流れるからこれは防止したい。
0V(GND)に対しておよそ+100Vの定電圧をツェナーDiで作ってこれでTr.のベース電位を固定しておく。エミッタが+100Vに接続されており、通常状態ではTr.はOFFとなっている。もし+100Vが落ちるとエミッタがゼロに向かって落ちていくためトランジスタがONとなり4011のNANDゲートの出力 Xがオンとなる。(Xがオンとなると、+250Vレギュレータの基準電圧発生をオフにするため+250Vレギュレータの出力は自動停止する)
タイマのカウント数だが、6BQ5のヒータのウォームアップ時間と+100Vレギュレータの動作安定時間を考慮するとは64(約60秒)では長すぎるので16に変更した。
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■部品調達
+250Vレギュレータの2SC4630(Vce=900V)は手持ちの2SC4578で代用。2SA1967(Vce=-900V)も手持ちの2SA1400で代用。扱う電圧が高いので耐圧に気を付ける。
そのほかアンプ部では特に入手が難しい部品はない。
電源の大型ケミコンは若松の通販でリサイクル品が安くで買えた。

■製作(基板)
↓+250Vレギュレータ基板
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↓-10Vレギュレータ基板
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↓アンプ基板
抵抗1Ω(MPC74)は6BQ5のプレート電流計測用。調整用の半固定VRは基板の裏に取り付けている。
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■製作(電源)

ホームセンターにちょうど良い大きさの木箱があった。サイドに1mm厚アルミ板を付けて+250VレギュレータのMOS FETのヒートシンクにする。

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■製作(アンプ本体)

ケースに穴をあける位置寸法はCAD(RootPro CAD)で書いて原寸大で紙に印刷してケースにのり付けして、ポンチを打つ。この方法が一番正確にできる。ケースは2mm厚アルミなので真空管ソケットの穴加工はシャシーパンチでは無理。20mm径ホールソーであける。出力トランスの穴加工は大変だが糸鋸(コッピングソーテーブル)であけた。
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↓ケース内配線。低インピーダンス入力なので入力ジャックとの配線にはシールドケーブルを使わなくても問題ないはず。
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■調整
プレート電流が40mAになるようにバイアス調整したあと、入力(6DJ8のカソード)の電位のゼロ調整を行う。バイアス調整用の半固定VRは1kΩでは調整範囲が少なすぎなので2kΩにすべきだった。回路図に記載の通り680Ωを追加した。
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■試運転
最初はNFBなしで音出し。最大音量で鳴るので音源のVolumioのソフトウェア音量コントロールを有効にしてここで音量調整する。スケールの大きな音は苦手のようだが明らかに純度の高い音の印象。これがシングルアンプの良さなのかもしれない。低音ももたつくことなくしっかり出る。スピーカから残留ノイズはまったく聞こえない。アンプのゲインが低いせいもあるだろう。DACの電流出力アンプの信号レベルが高いのでアンプのゲイン不足は気にならない。狭い室内で聞くには十分だ。NFB無しは純粋な音が出る印象だが、その半面、荒削りにも聞こえる。
次に音量調整VRを介してNFBをかけるが、音の印象はそれほど変わらない。裸ゲインが小さいのでそれほど大きなNFBはかかっていないからだろう。自動バイアス制御回路のおかげで動作点のずれはないはずであり安心できる。
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■まとめ
シングルアンプは初めて作ったが、シンプルな回路とシンプルな素子によって純粋な音が出るアンプとなった。低ゲインだが残留ノイズが無く、出てくる音にも動的なノイズが混じらない印象。NFBは少ないせいか艶っぽさはないが素直な音を出している。このほうが長く聞いていても耳が疲れないと思う。ただしパワーは出ない。出力トランスの特性だと思うが低域は伸びない。

次は電流入力+差動プッシュプル出力のアンプを作って本気と比較してみたい。