レコードプレーヤーのターンテーブル制御
パイオニアのPL-1100。約40年前に先代が買ったもの。今でも現役で使えている。ダイレクトドライブ方式だ。ドライブ回路を改造してターンテーブル制御アンプによるクォーツロック制御をやってみた。
ネットで検索してみると同時期につくられたと思われるパイオニアのダイレクトドライブ製品のサービスマニュアルが見つかった。詳細な回路図がついている。機種は違うが回路はほぼ共通らしいことが分かった。ホール素子でローターの位置検出を行い、その検出信号でモータのコイルをドライブするトランジスタをスイッチングしているようだ。ホール素子信号の検出回路は2つのトランジスタで差動入力してある。 コイルのドライブトランジスタの電源は+18Vの単一電源なのでドライブ電流は±の両波信号ではなくプラスだけのシングル波信号だ。ドライブ信号にはダイオードによる整流回路がついている。回転時にコイルに発生するマイナス側の誘導電圧を整流して回転速度に比例する信号を得てドライブアンプにフィードバックさせているようだ。ダイオードは昔懐かしのゲルマニウムダイオード1N60だ。
モータを開けてみると3つのホール素子が埋め込んであることがわかる。コイル数は各極に8つで合計24個ある。
ホール素子の起電圧を増幅してゲイン制御できるアンプを通してモータコイルをドライブするアンプを3組つくればとりあえずモータを回転させることができると考え、実験回路を組んでみた。ゲイン制御にはトランスコンダクタンスアンプICのLM13700Nを使う。シミュレーションで回路の動作を確認した。 ドライブアンプはDCアンプ風に差動入力として出力からのNFBがかかるようにした。最初はLM13700Nで直接ホール素子信号を差動入力してみたが、実際に回路を組んでテストしてみると出力オフセットが大きかったので、手持ちのオペアンプ(OPA134)による差動入力アンプを追加した。
下のプロットは出力抵抗に流れる電流をシミュレーションしたもの。LM13700Nの出力コントロール用の抵抗値をステップ値パラメータとするとゲイン変化に応じて出力電流が変わることがわかる。これでモータのパワー、すなわち回転トルクを制御することができるだろう。
同じ回路を3つ並べて、ホール素子の出力を模擬する正弦波信号源の位相を120度ずらしてシミュレーションしたものが下のプロット。このとおりにモータコイルに電流が流れればモータは回転してくれるはず。
↓ ロータ位置検出およびアンプ駆動信号生成回路基板。 LM13700はJRC製を使用。
↓はロータを手で回転させたときのホール素子(2個)の出力信号をオシロで見たもの。山のピークがつぶれ気味であり、正弦波とはかけ離れた波形であるがこれで回転磁界を作っていることになる。2つの信号の振幅がややばらついているのも気になるが、これがホール素子の特性なのだろう。なお、ホール素子の電源には、オリジナルの回路では0V/+18Vが使われていたが、これを-5V/+5V供給に変更することで出力波形はほぼゼロVを中心に変化するようになった。
↓はアンプ基盤。実験回路なので基板のランド面に部品を配置した。この方が部品の変更が簡単にできる。
↓プレーヤーの中に回路を組み込んだ。丸い基板はオリジナルのモータ制御回路。いつでも元に戻せるように古い電源回路とトランスも残しておく。左上にある小さな基板はアンプ電源用に作った+18Vレギュレータ。
モータがまともに回転するまでに試行錯誤があったが、これで新たに製作したモータドライブ回路が動くことが確認できた。プラッターを外した状態でも高速回転であればロータは連続回転することができる。
さて、次は回転数制御回路だ。参照した回路は「オーディオDCアンプ製作のすべて(下巻)」のモーター制御アンプの製作記事から、SP-10MK1用制御部のほぼコピー。同期パルスの周波数は、2.4576MHzの水晶発振を512分周 x 54分周して88.88Hzを得る。
次が回転数制御のかなめである速度検出部。赤外線LEDの反射型フォトインタラプタ(RPR220)を使った。プラッタの外周に刻み込まれているストロボ用の突起の一番下(60Hz電源の45rpm確認用)をターゲットとすることにより、一回転で160パルスを検出する。 (33.33[rpm]/60[sec] X 160 [pulse] = 88.88[Hz]なので、88.88Hzの同期パルスと同期するように回転数制御すれば33.33回転/分になる) ストロボ突起は紙やすりで表面をよく磨くことで反射信号のレベルは十分になったが、2~3個の突起に小さな欠けキズがあり、どうしてもそこで検出波形が乱れる。仕方ないのでそこだけルーターでなるべく平坦になるように削り込んだがそれでも完全には治らない。回転数フィードバック信号に若干のノイズが乗ってしまう。
↓ケースに組み込んだ回転数制御基板。±5Vレギュレータも作って組み込んだ。
回転速度に逆比例した信号でフィードバック制御されて初めて回ってたときは感動的だった。速度制御だけでは時間とともに徐々に33.3rpmからずれてくるが、ここで位相制御を少しずつ効かせていくとピタリと位相ロックがかかるポイントがある。効かせすぎると振動的になるので位相ロックがかかるギリギリのところで止めておく。停止状態から制御をオンにすると全力で定格回転数に到達しようとする動きが頼もしい。
下のプロットは起動時の速度検出パルス(青線)と制御信号(橙色線)の様子。定格回転数に到達する前に制御信号が振動して不安定気味だが整定する。 アンプがシングル動作なのでモータのドライブ能力が低いことが影響しているのかもしれない。
実験回路だがとりあえずはターンテーブルが一定回転で制御されるようになった。レコードをかけてみる。
レコードの音であることには変わりはないが、今までぼやけていた輪郭がはっきりするようになった音の印象だ。Vnソロははっきりと聞こえるし、オケの全体もしっかり鳴る感じ。レコードに記録された音を最初に復元しているのはターンテーブルのモータの力であり、このモータをしっかりドライブすることが重要であることが体感できた。これは今までにないオーディオ体験だ。
次はモータドライブアンプをまともな±出力のDCアンプ回路に変更して音の変化を確認してみたい。