6C19P パワーIVCの製作

以前に作った6C19P DCパワーアンプをIVC化する。参考製作記事は MJ 2016年/6月号 「6C33C-B ハイパワーIVC」である。初段が差動増幅からシングル増幅回路になっており、PK分割に似た方法で逆位相の信号を得ている。回路が簡単になった代わりに+電源の安定化は必須であろう。レギュレータが採用されている。
さらに本製作記事からの変更点は次の通り。
初段管は改造前の差動増幅に使っていたWE404Aとする。(両chで使っていた4個のうち2個は外してプリアンプに流用)
+電源(電圧増幅段)の電圧は+175Vとする。+130Vまで下げるとレギュレータでの損失が大きくなるため。
-電源は定電流用なのでレギュレータなしでも動作には問題ないはず。非安定化の-330Vとする。(しかし、後述のようにトランジスタでの損失が大きくなるので製作記事通りレギュレータを追加して-280Vとした。)
出力管は6C19Pのパラ接続とする。

■回路図
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(実際の製作に使った素子は、U1: WE404A, Q2, Q5: 2SA1967,  Q3, Q4: 2SC4587,)

WE404Aは高gm管なのでグリッドには寄生発振防止の100Ωを入れておく。出力から低インピーダンスのフィードバックが入力にかけてあるのでこの100Ωはなくても良いかもしれない。
+出力側の6C19Pのグリッド信号を-280V電源に引っ張っている定電流回路のQ4には200V以上の電位差がかかっており、1.2Wもの損失になる。小型の放熱器をつけたが、実際の動作でも触れないほどに熱くなるのでTr.がかわいそうだ。そこで、ツェーナダイオードによるレベルシフトを挿入した。39Vx2 = 78V 分の電圧減となるのでTr.の損失は900mW位に下がった。もちろんこれはTr.での損失の一部をツェーナダイオードでの損失に分散しただけなのでトータルの発生熱量は変わらない。(この部分のレベルシフトのアイディアは初代6C33CB DCパワーアンプ(トランスレス)の製作記事にあったもの。その当時は使用しているFETの耐圧内に動作電圧を収めるためだった) -電源電圧は最初はレギュレータなしの-330Vだったが、なるべく電圧を下げるために-280Vのレギュレータを追加した。

↓は改造前の6C19P DCパワーアンプの回路図。初段増幅回路もAOC(オフセット制御)回路も差動回路だったが、改造後はここが半分になってシンプルになった。終段管に深いバイアス電圧が要るのでそれをドライブするトランジスタに比較的高電位差がかかっているのは変わらない。
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■基板
↓電圧増幅段の基板。改造前の基板を流用して、SAOC回路も同一基板に収めることができた。
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背が高いトランジスタを立てて基板に取り付けたので、シャシーにぶつからないように長いサポートを付けたため404Aがもぐりこんでしまったがこれはこれで良いだろう。後ろに一列にならんだ6C19Pが主役に見える。
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■電源
このアンプの回路の動作はAOC(オフセット制御)回路無しでは成り立たない。終段管のドライブ信号を作る回路が半導体と真空管の非対称な組み合わせになっているからだ。特に起動時には問題となる。半導体は電源オンですぐに動作開始するが真空管はヒータが温まるにつれてゆっくり動作開始するので動作点がすぐに定まらない。
だからAOCによって出力オフセットがゼロになるように入力管のグリッド電圧をフィードバック制御している。ところが、出力電圧が発生するのは終段管に電源が投入されてからなので、それまではドライブ回路の動作点は成り行きになってしまう。成り行きのドライブ電圧制御状態で終段管の電源を投入するとアンバランスによって大きな出力オフセットが発生するだろう。そうするとオフセット検出によって終段管の電源をカットする保護動作が働いてしまう。
この対策のためと思われるが、製作記事によると、初段真空管の+/-電源の投入には時限タイマが入れてあり、ヒータを入れて30秒ほどたってから動作開始としている。+175V/-280Vレギュレータのそれぞれに出力ホールドの回路が追加されおり、これを555タイマ回路でスイッチしている。この仕組みをそのまま使うことにした。下記のタイマ回路は製作記事から出力管の時限オン回路を削除したもの。(出力管の時限オン回路は改造前のタイマリレーによるものを流用した)
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アンプ全体の回路図を整理して書いた↓。
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オリジナル回路の初段418Aのグリッド電圧を調整するVR1kΩとGNDの間に1S1588x2によるバイアスが入っているが、404Aのグリッド電圧は-2V程度になるので1S1588は撤去した。
アンプ全体のゲインが高すぎるので、ゲイン調整VRに直列に入っていた3.9kΩは撤去した。(こうするとVRをゼロ位置にして音量をゼロに絞ることができるが発振気味になるようだ。保護回路が動作することがある)
定電流回路のツェナーダイオードに直列に1S1588を入れた。6C19Pのアイドリング電流が温度上昇に伴って減少してしまうのでここで温度補償することにしたもの。6C19Pのグリッド電圧を観察していると電源投入開始から明らかにマイナス側(バイアスが深くなる方向)にじわじわとずれてくるので、ここの定電流回路の電流が温度上昇に伴って増加している。アイドリング電流が温度上昇と共に減少するのは安全方向ではあるが、最初にセットしたアイドリング電流(130mA)が半分にまで減少するので、多少の温度補償が必要だ。適切な温度補償を得るために試行錯誤になってしまうのは仕方ないようだ。

■運転
6C19Pの電源投入タイマは2分に設定。電源ONから約30秒後にドライブ回路の電源がオンとなり、その後1分半で6C19Pにも電源が投入されて運転開始となる。

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しっかりと低音が鳴るのはDCアンプの特徴の一つだろう。ベース音が引き締まると音楽が躍動する。それにも増して中高音の表現はとても明瞭だ。高音はうるさく響くことがなく、はっきりしているのに滑らかであり聞いていて疲れない。差動増幅を廃した単管ドライブのパワーアンプは、SiC-MOSFETによる電源レギュレータとの組み合わせで理想に近い音を出すと言えるだろう。 米国製(WE404A)+ロシア製(6C19P)+日本製(トランジスタ/MOS-FET) の3国技術融合アンプと呼びたい。

運転中に右Chの終段管のアイドリング電流が突然減ってしまい、歪みが多い音になってしまう現象が多発した。
最初は良くてもオフセット制御がAOCの制御範囲から外れてしまうようだ。原因は2SK170に流れる電流の不足と思われる。Idssが小さい2SK170は使えない。使っていた2SK170GRのIdssを測ったら4mAだったので、これを8mAのものに交換した。(ここは2SK170BLを使うべきであった)。 404Aのカソード電位を決める2SA1967のベースに入っているVRを変化させると2SK170に流れる電流も変わってしまうので、調整にちょっとコツが要るようなのだが、出力オフセットがゼロに近いときに2SK170に3mA程度が流れるようにしておくのが良いようだ。
起動時の6C19P通電時にパチッというちょっとしたショックがあるがそれほど気にはならない。AOCの動作は安定している。 アイドリング電流の安定度は様子見中であるが、最初に140mA位にセットしていても長時間運転すると100mA程度に下がってきてしまうが、あまり気にしなくても良いのかもしれない。

安心して使えるアンプに仕上がった。 器楽曲を聞くことが多いが、このアンプが出す楽器の音は今までになく美しい。奏者が音に込めた表情がわかる。緻密な音が集まって充実した音楽を作ってくれる。 もうこれ以上の音を求めてさらなるパワーアンプを作る必要はないのかもしれない。

しかし完成してしまうと、また別に作りたくなってくる。次は、差動出力pp真空管アンプの単管ドライブをやってみたい。


↓は電源ユニットの中身。
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